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名古屋高等裁判所 昭和55年(行コ)15号 判決

名古屋市名東区猪高町猪子石交換一五の六

控訴人(一審原告)

加藤利男

右訴訟代理人弁護士

伊藤宏行

青木俊二

鈴村昌人

名古屋市千種区振甫町三の三二

被控訴人(一審被告)千種税務署長

村田亮

右指定代理人

西川賢二

井奈波秀雄

岡嶋譲

木村亘

服部勝彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和五一年分所得税について昭和五二年一〇月二六日付でなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  本件消費貸借において、実質は訴外伊藤が主債務者、控訴人が連帯保証人であるにもかかわらず、控訴人が主債務者、伊藤が連帯保証人という形式をとったのは、既述のとおり猪高農協が組合員以外の伊藤を主債務者となしえないためでもあるが、その実質的理由はむしろ、同農協が右貸付に当たり、その債権確保手段の重点を、専ら控訴人が提供した本件不動産の担保力に置き、人的保証の形式には囚われなかったことによるのである。そして、右のように実質上の借主が伊藤であったればこそ同人は本件借入直後控訴人に対しその営業権一式を担保に差入れたものであり、又控訴人は本件に関して一円の利鞘も得ていないのである。

右の実体を無視し、控訴人の右農協に支払った金一三二四万二八六五円を所得税法(以下単に法という。)六四条二項にいう保証債務の履行とみなかった本件課税処分は、法律上の形式に囚われてなした違法なものである(いわゆる実質課税の原則は、納税者側についても適用さるべきである。)。

2  被控訴人は、仮に控訴人が実質上連帯保証人であったとしても、その行為は実質上、債務の引受、又は贈与ないし利益の供与とみるべきであると主張する。しかし、本件借入当時、伊藤は現に石油スタンドを経営し、本件消費貸借により融資を受ければこれを継続しえたのであって全く弁済能力を喪失していたものではなく、控訴人も伊藤に対しその求償権を行使する意志を放棄していたものでもない。また、控訴人と伊藤との身分的、経済的関係からみても、控訴人が伊藤に右融資金を贈与等することはありえない。現に被控訴人は、本件課税処分において、本件消費貸借を金銭消費貸借と認定しているのであって、本件消費貸借を債務の引受とし、又は控訴人の伊藤に対する右融資金の交付を贈与ないし利益の供与とみていない。

したがって、右消費貸借当時、すでに求償権の行使が不能であったとか、実質債務引受等があったとする被控訴人の主張は失当である。

二  証拠

控訴人は甲第五号証を提出し、当審における証人前野鋓駒、同伊藤一正の各証言及び控訴本人尋問の結果を援用し、被控訴人は右甲号証の成立を認めると述べた。

理由

一  本件課税処分の経緯、控訴人の総所得金額、並びに本件譲渡所得金額につき控訴人を名実ともの主債務者としてこれを算定すべきことについては、左に附加するほか、当裁判所の認定・判断も、原判決理由第一項並びに第二項冒頭及び一、二の各説示と同一であるから、これを引用する。

原審及び当審における証人伊藤一正の証言及び控訴本人の供述(いずれも後記措信しない部分を除く当審における証人前野鋓駒の証言を総合すると、控訴人と伊藤が猪高農協に対し本件借受を申込むにいたった経緯は、原判決一九丁裏八行目「伊藤は」以下、同二一丁表末行までに記載のとおりであるところ、控訴人は伊藤を同行して、控訴人が組合員である猪高農協に赴き、融資担当の前野鋓駒に対して伊藤に融資するよう申入れたが、伊藤が組合員でないこと及び地域外貸付となるため融資をことわられ、止むをえず、控訴人が主債務者(兼根抵当権設定者)となり、伊藤を連帯保証人とする本件消費貸借契約が締結されたこと、右前野も、控訴人に融資がなされた上は右融資金は直ちに控訴人より伊藤に交付され、同人が事業資金に使用することを認識していたが、しかし猪高農協としては、右融資申込の経緯、融資金の使用予定にかかわらず、専ら、控訴人の信用、資産(控訴人は右借受当時本件土地を含め、時価一億五〇〇〇万円の不動産を有し、また給与所得等の収入が年額二〇〇万円余あった。)を評価して、右資産の一つである本件土地に根抵当権を設定して控訴人に貸付けることとしたものであること。したがって、伊藤についてはその信用、資産等につき一切調査をせず、伊藤を実質的な主債務者とみていなかったことは勿論、一応保証人としたけれども、その担保力を殆んど評価せず形式上のものにすぎないとすら考えていたこと、なお伊藤がその後控訴人に差入れたという担保(乙第三、四号証に記載のもの)は殆んど財産的価値のないものであること、以上の各事実が認められ、前記伊藤証言並びに控訴人の供述中右認定に反する部分は、その内容において前後矛盾するところもあり、又原判決援用の各証拠と対比しても、これを採用することができない。

右認定事実及び前記引用の原判決第二項の一、二に判示の事実関係を総合すると、本件消費貸借については、融資者である猪高農協との関係において、その主債務者は名実ともに控訴人であるというべくたとえ同人が右に関し何らの利鞘を得ていなかったとしても、その点を含めたじ余の問題は控訴人と伊藤間の内部関係に属するものというべきである。

二  仮に、控訴人を実質上連帯保証人と解したとしても、本件には法六四条二項適用の余地がないこと、その他の争点についての当裁判所の認定・判断は、この点に関する控訴人の当審主張を考慮に入れてもなお原判決理由第二項の三以下の説示と同一であるから、これを引用する。

三  よって、本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 浅野達男 裁判官 寺本栄一)

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